「山のてっぺんからダライ・ラマがうたっているように」


ジェフ・エメリックという人がいる。 レコーディングスタジオのエンジニアである。 ビートルズの数々のアルバムでの仕事で有名である。 

ジェフ・エメリック自身が書いた「ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実」 という本の中で、ビートルズの実験的で斬新なサウンドはどのように創られていったかが書かれている。

面白い発見をした。

ビートルズのサウンドの斬新なアイデアは、ポール・マッカートニーの天才的な音楽的才能によるだけでなく、ジョン・レノンの無茶な要求によるところも多いようだ。

例えば、「Tomorrow never knows」という曲では、「俺の声を山のてっぺんからダライ・ラマがうたっているような感じにしろ」と注文をつける。

それって何? という感じだが、ジョン・レノンという人は 「どうやるのか知らないけどどうにかしろ。 お前らはそのためにいるんだろ」 というタイプである。

ジェフ・エメリックは、このときは、ジョン・レノンのボーカルの声をハモンドオルガン用のレズリー・スピーカー(ドップラー効果によるうねりを作り出すための回転するスピーカー)に突っ込んで、まさに「山のてっぺんからダライ・ラマがうたっている」サウンドを創り上げた。

ジョン・レノンの要求というものはこんな感じだ。
「ベッドの中でまだ夢の中にいて、上流に漂っていく感覚」
「小さな音が次第に大きくなり、ついには何もかも飲み込んでしまう感じ」
「自分の声を月から聴こえてくるようにしたい」

要求は抽象的で、具体的にはどういうことなのかよくわからない。

そこから創造という活動が始まるから面白い。

録音したテープを逆回転再生させたり、安物のマイクをアンプに過入力させて声をわざと歪ませたり、録音したテープを切り刻んで適当につなぎ合わせてみたり、と常識はずれのことをいろいろやっている。

「要求が抽象的でよくわからない、もっと具体的に説明してくれ」という意見はもっともなのだが、創造性というものはそういう所じゃないところから生まれたりするから面白い。

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