うかつにも最近まで気づかなかったのだが、いま米スタンフォード大学の学長は、ジョン・ヘネシーだ。
RISC型CPUの研究者、MISP社の創業者として有名なジョン・ヘネシーだ。
スタンフォード大学の教授であったジョン・ヘネシーは、RISCと呼ばれる新しい設計思想のコンピュータ・アーキテクチャーを研究していた。そこで、ジョン・ヘネシーは、自分の研究成果を商業化するために、MIPS Computer Systems という会社を興す(Microprocessor without Interlocked Pipeline Stages(パイプラインステージがインターロックされないマイクロプロセッサ) の頭文字をとってMIPSという社名にしたという)。
RISCとは簡単に言ってしまうと、いろいろな命令の実行スピードをみんな同じ1クロックにして、実行パイプラインに待ち行列ができないようにした方が、コンピュータは高速処理できる、という考え方である。同じスピードで実行できないような命令はそもそも不要でそのような複雑な命令を持つ必要はない、命令は単純化せよ、と言っている。 そこから、このようなプロセッサは、RISC(Reduced Instruction Set Computer、縮小命令セットコンピュータ)と呼ばれた。
これに対して、当時インテルをはじめ他のマイクロプロセッサは、より複雑な命令を処理できるようにすることが進歩だと思っていた。 当時のインテルや他のプロセッサは、RISCに対比して、CISC (Complex Instruction Set Computer、 複雑命令セットコンピュータ)と呼ばれた。
最初の頃は、RISCがいいのか、CISCがいいのか、という議論があったが、方向を決定づけたのは、ジョン・ヘネシーがデイビット・パターソンと一緒に書いた 「Computer Architecture : A Quantitative Approach」(日本版、コンピュータ・アーキテクチャー 設計・実現・評価の定量的アプローチ)という著書だった。これにより、RISCのアーキテクチャーとしての優位性は明確になった。
その後、インテルをはじめCISCと呼ばれたプロセッサも、CISC的命令を内部でRISC的な命令に翻訳する機能を組み込み、この論争には終止符が打たれた。
このような起業家精神に溢れた人間が学長になるところが、スタンフォード大学の凄いところなのか。
ご存知のように、スタンフォード大学は、シリコンバレーに位置し、HP、SUN、ヤフー、グーグル、・・・・など数多くのベンチャー起業家を輩出し、いまもシリコンバレーに人材を供給し続けている。
ロゴスウェアのオフィスがあるつくば市をはじめ、日本のあらゆるところで、大学や研究機関などを核にした「シリコンバレー化計画」のようなものが企画されるが、どうもうまくいかないようだ。
ジョン・ヘネシーは次のように言っている。
たとえ大学に有望な技術の種があったとしても、グーグルのように短期間で急速にグローバル企業へ成長を遂げるようなハイテクベンチャーが日本に出てくるかどうか、私は疑問に思います。 なぜなら、多くの人に勤め先を辞めるよう説得して、成功するかどうかが分からないベンチャーに入社してもらうことが必要だからです。
開拓精神にあふれた人が次々と入社してくるので、ベンチャーは急激なスピードで成長できるのです。シリコンバレーに見られるベンチャー起業のバイタリティーを許容しない点は、日本の弱点と言えるでしょう。
いまグーグルからの人材流失が少し話題になっている。 グーグルといえどもシリコンバレー的にはもはやエキサイティングではないのだろうか。これがシリコンバレー精神というものなのか。いずれにしてもタフではある。
ベンチャー育成にまず必要なものは仕組みではないのだ。そういう人間が必要なのだ。