「虫よ 虫よ 五ふし草の根を絶つな 絶たば おのれも共に枯れなん」
伝えられるところによると、西郷隆盛はこの歌を生涯大切にしたという。
虫というのは役人のことで、五ふし草とは稲のことをいう。 つまり、「役人たちよ、農民に重い税を課してそんなに苦しめるな。 農民がいなくなれば、自分たちも滅びるのだぞ」という意味になる。
西郷がまだ薩摩藩の郡方書役助(こおりかたかきやくたすけ)という仕事についていたとき、自分の席の前の壁に貼っていた戒めの歌なのだという。
郡方書役助というのは、今でいえば税務署補助職員のような仕事である。 その時の上司(郡奉行)に迫田という男がいて、その迫田が詠んだ歌である。
役人の腐敗は昔から酷かったらしく、農民からの年貢を自分の懐に入れる奴や賄賂をもらう奴などがたくさんいたらしい。 迫田には正義感はあったのだろうが、役人を正すことはできなかった。 「自分はいくじなしのダメ奉行だ」といって職を辞してしまう。 そのときに、西郷に手渡した紙に書かれていた歌が、「虫よ 虫よ ・・・」の歌であるという。
幕末のころからもう150年は経つだろうが、人間はあまり進歩しないようだ。 いまだに汚職があり、腐敗し、差別がある。だから、人間にはいつでも戒めが必要だ。